002

恋愛標本

色即是空

図書室の窓は四時を過ぎると
急に西日を隠さなくなる
君が貸した本の折れた角だけ
妙に正しくて腹が立つんだ
感想なんてまだ言えないし
言えば多分軽くなるし
机の上にはシャープの芯と
使い切れない比喩が残った

ねえこういうのを恋と呼ぶには
少しだけ語彙が足りない
でも知らないふりもだいぶ下手だね

恋愛標本ラベルのないまま
綺麗な箱で息をしている
触れたら多分形を変える
だから言葉の手前で見てる
恋愛標本君の横顔が
たった一頁増やす騒音
好きと言うにはまだ早すぎる
でも読めないままじゃいられない

改札の前で時計を見るふり
本当は歩幅を待っていただけ
どうでもいいって笑ったあとの
沈黙だけが妙に賢い
月とか花とかありきたりだし
使えば少し負けた気がする
それでも君の癖をひとつ知るたび
街の見え方が勝手に変わる
ほら真面目には話せないくせに
核心だけ先に赤くなる
その一言で全部の余白が
急に本文になる

恋愛標本ラベルのないまま
綺麗な箱で息をしている
触れたら多分形を変える
だから言葉の手前で見てる
恋愛標本君の横顔が
たった一頁増やす騒音
好きと言うにはまだ早すぎる
でも読めないままじゃいられない

正しさなんてあとで決めればいい
大事なのは順番の方で
目を逸らすこと息を止めること
その全部にもう意味がある
今さら気づくの少し遅いね

恋愛標本名前をつけたら
多分少しだけ凡庸になる
だから今夜は結論を置いて
君の沈黙だけ持ち帰る
恋愛標本閉じた頁から
かすかな熱だけ逃げてこないで
好きの手前で足踏みをして
それでもちゃんと明日をめくる

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