恋愛標本
図書室の窓は四時を過ぎると
急に西日を隠さなくなる
君が貸した本の折れた角だけ
妙に正しくて腹が立つんだ
感想なんてまだ言えないし
言えば多分軽くなるし
机の上にはシャープの芯と
使い切れない比喩が残った
ねえこういうのを恋と呼ぶには
少しだけ語彙が足りない
でも知らないふりもだいぶ下手だね
恋愛標本ラベルのないまま
綺麗な箱で息をしている
触れたら多分形を変える
だから言葉の手前で見てる
恋愛標本君の横顔が
たった一頁増やす騒音
好きと言うにはまだ早すぎる
でも読めないままじゃいられない
改札の前で時計を見るふり
本当は歩幅を待っていただけ
どうでもいいって笑ったあとの
沈黙だけが妙に賢い
月とか花とかありきたりだし
使えば少し負けた気がする
それでも君の癖をひとつ知るたび
街の見え方が勝手に変わる
ほら真面目には話せないくせに
核心だけ先に赤くなる
その一言で全部の余白が
急に本文になる
恋愛標本ラベルのないまま
綺麗な箱で息をしている
触れたら多分形を変える
だから言葉の手前で見てる
恋愛標本君の横顔が
たった一頁増やす騒音
好きと言うにはまだ早すぎる
でも読めないままじゃいられない
正しさなんてあとで決めればいい
大事なのは順番の方で
目を逸らすこと息を止めること
その全部にもう意味がある
今さら気づくの少し遅いね
恋愛標本名前をつけたら
多分少しだけ凡庸になる
だから今夜は結論を置いて
君の沈黙だけ持ち帰る
恋愛標本閉じた頁から
かすかな熱だけ逃げてこないで
好きの手前で足踏みをして
それでもちゃんと明日をめくる