八月の余白
白いシャツに風が残る
坂の途中で息を止めた
言わなかったひとことだけ
喉のあたりでまだ明るい
踏切越しの青の深さ
まぶしすぎて目をそらした
あなたの声に触れたあとは
街の輪郭が少しやわらぐ
夕立の前の匂いがして
心の奥が静かに鳴る
名前を呼べば終わりそうで
笑ってばかりいた
八月はまだ何も言わず
青い余白をひろげていた
あなたの隣で黙るたびに
心の温度が見えてしまう
帰りの川にひかりが揺れて
やわらかな夜が降りてくる
この気持ちは言葉になる
その手前だけで生きていた
ぬれた髪から水が落ちる
自販機の灯がそれを拾った
次の街の名ふいにこぼれて
ほんとのほうへ近づいていく
遠くで花火ほどけるたび
夜の表紙がひらいてゆく
隣にいるとそれだけで
時間の色まで変わってしまう
八月の風はずるいでしょう
なんでも少し綺麗にする
言えないままのこの気配まで
連れてゆきそうで
八月はまだ何も言わず
青い余白をひろげていた
あなたの隣で黙るたびに
心の温度が見えてしまう
帰りの川にひかりが揺れて
やわらかな夜が降りてくる
この気持ちは言葉になる
その手前だけで揺れていた
子どもじゃないと思うたびに
胸のどこかが追いつかない
平気な顔で笑ったあと
横顔だけが遠く見えた
八月はもう何も言わず
青い余白を閉じてゆく
あなたの隣で黙っていた
あの温度だけ消えずにいる
夕立あとの匂いのなかで
ほどけたままの声を思う
夏の終わりにふれた熱を
わたしは今も抱いている