004

八月の余白

色即是空

白いシャツに風が残る
坂の途中で息を止めた
言わなかったひとことだけ
喉のあたりでまだ明るい
踏切越しの青の深さ
まぶしすぎて目をそらした
あなたの声に触れたあとは
街の輪郭が少しやわらぐ

夕立の前の匂いがして
心の奥が静かに鳴る
名前を呼べば終わりそうで
笑ってばかりいた

八月はまだ何も言わず
青い余白をひろげていた
あなたの隣で黙るたびに
心の温度が見えてしまう
帰りの川にひかりが揺れて
やわらかな夜が降りてくる
この気持ちは言葉になる
その手前だけで生きていた

ぬれた髪から水が落ちる
自販機の灯がそれを拾った
次の街の名ふいにこぼれて
ほんとのほうへ近づいていく
遠くで花火ほどけるたび
夜の表紙がひらいてゆく
隣にいるとそれだけで
時間の色まで変わってしまう

八月の風はずるいでしょう
なんでも少し綺麗にする
言えないままのこの気配まで
連れてゆきそうで

八月はまだ何も言わず
青い余白をひろげていた
あなたの隣で黙るたびに
心の温度が見えてしまう
帰りの川にひかりが揺れて
やわらかな夜が降りてくる
この気持ちは言葉になる
その手前だけで揺れていた

子どもじゃないと思うたびに
胸のどこかが追いつかない
平気な顔で笑ったあと
横顔だけが遠く見えた

八月はもう何も言わず
青い余白を閉じてゆく
あなたの隣で黙っていた
あの温度だけ消えずにいる
夕立あとの匂いのなかで
ほどけたままの声を思う
夏の終わりにふれた熱を
わたしは今も抱いている

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